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目からうろこが…… 

 投稿者:編集部  投稿日:2017年10月15日(日)13時58分20秒
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         目からうろこが…… 




 目からううろこが落ちる、という表現がある。慣用句の一種だろうと思っていたが、調
べてみると、新約聖書の中にある言葉で――あることがきっかけになって、迷いがさめた
り、物事の実態がわかるようになること――とある。いずれにせよ、この年まで生きてき
たのだから、誰しも何回か、あるいはそれ以上経験しているはずである。自分にとっての、
目からうろこの体験を振り返ってみたい。

 思い出した順に言えば、まず、イザヤ・ベンダサン(山本七平のペンネーム)の『日本
人とユダヤ人』を読んだ時。昭和四十五年頃だったと思うが、当時は、いわゆる日本人論
が大ブームで(他に『甘えの構造』『菊と刀』等々)、本書はその代表的なもの。特に有
名になったのは「日本人は、安全と水は無料で手に入ると思いこんでいる」という一節。
今でこそ海外旅行も一般化し、国によっては水のほうがワインやビールより高いことは知
られているが、当時は斬新な指摘だった。安全についても、ここ数年は、北朝鮮の核武装
化や中国による尖閣諸島周辺への侵入問題で、安全保障が真面目に議論されるようになっ
たが、当時の日本は、世界断トツの圧倒的なアメリカの軍事力の傘の下で、安全なんて二
の次、ひたすら経済発展に邁進していた。それだけに痛烈かつ有意義な指摘であった。
 ただ、目からうろこを感じたのは、この箇所じゃなく、「ユダヤ人とはユダヤ民族のこ
とではなく、ユダヤ教の教徒のこと」という論述である、つまり、アメリカ人もイギリス
人も、そしてアラブ人もユダヤ教徒であればユダヤ人ということ。事実、イスラエル建国
は、当時パレスティナに住んでいたアラブ系ユダヤ人を主体に、各国からの移住者が加わ
って成されたという。占領国ユダヤと被占領国アラブの対立という従来の図式をそのまま
鵜呑みにはできないようである。
 さて、ユダヤ人=ユダヤ教徒となれば、日本人とは何か、と考えたくなるのは必定。わ
りと多いのは、日本国籍を持つ人が日本人だという意見だが、そう簡単ではない。例えば
フランス人の奥さんを持つ日本人がいる。彼女は日本国籍を取得しているが、彼女を日本
人と言う人は少ない、と思う。日本人の日本人たる所以は何か――人種・伝統文化・言語等
色々あるが、決め手に欠ける。そこで白分なりに考えて出した結漏はi天皇を精神世界で
の国の中心と考え、尊崇と敬愛の芯をいだく人達――。皆さんの意見はどうだろうか。

 次の、目からうろこは、昭和四十年代後半、ピアニスト・中村紘子のエッセイから――
彼女がイギリス人の家庭に滞在していた時。その家にアメリカに住む友人からグレープフ
ルーツが送られてきたが、二、三日で変色し五日もたたずに腐ってしまった。中村が、日
本でもアメリカ産を食べるが、腐って一週間や十日くらいは大丈夫だけど、と言ったとこ
ろ、そこの主人は気気の毒そうな傾をして、それは防腐剤のお陰だと――。つまり、日本
には防腐剤に漬けられ太平洋を渡って届けられる。一方、アングロサクソンの仲間である
イギリス人には防腐剤なしで運ばれるため傷みが早いということ――。ショックだった。
しばらくは、レモンやオレンジが船倉の防腐剤の液の中でプカプカ浮いている様を想像し、
口にできなかったものだ。
 近年は空輸とか、色々改善されているようだが、所詮、輸入品は輸入品。食材の国産化
率の向上が望まれる。生産者の一助・育成に力を入れるべきである。といっても、TPP
反対論者ではない。日本農業低迷の一番の原因は競争原理の欠だと思うからである。ただ、
この問題については本テーマと直接関係がない故、これで措きたい。

 次は漫画の話。実は大の漫画好きで、結婚当初、少年サンデーとマガジンを毎週購読し
て、女房をあきれさせたものだ。そのDNAは息子二人に受け継がれ、今でも彼らの、ぼ
う大な蔵書を物色するのを愉しみにしている。漫画を文化的に低いレベルのジャンルと見
倣す向きもあるが、その人には、つげ義春の『ねじ式』を薦めたい。並の小説家では敵わ
ない文学性の高さに驚くはずだ。
 さて、紹介したいのは永井豪の『ススムちゃんの大ショック』。昭和四十年代後半の作
品で、永井はその後、『ハレンチ学園』や『マジンガーZ』で名を馳せる。粗筋はこうだ。
――或る日突然、大人達が子供を殺し始める。逃けのびたススム達数名が原因を話し合う。
秀才の子供が言う。子供を苦労して育てることが嫌になったというか、意味がないと思う
ようになり、やがて邪魔な子供を排除し、自由に生きることを親達が選択したからだと。
ススムは反論する。親が子供を育てるのは動物の本能ではないかと。それに対し秀才の子
は言い放つ。本能という奴を見たことがあるかと。結局、母を信じると言って、仲間と別
れ、家路についたススムを待つ運命は――。
 昨今、頻発する児童虐待事件を思うと、人間が子供を育てるのは本能なのか、それとも
見返りを期待しての利己的なものなのか、わからなくなるが、これに関し壮大な実験があ
る。中国のI人っ子政策である。
 一人しか子供を育てられない場合――親は最初に生まれた子供を“本能”にもとづき育
てるか、それとも、男なら賢そうな子、女なら可愛い子を期待して“次を待つ”か――答
えはある程度出ていると思う。老後の面倒をみてほしいとの理由で圧倒的に男の子の比率
が高いこと。男の子を欲しがって誘拐・人身売買まで起きているとか。国籍を持たない一
人っ子世代が何千万人の単位で存在する、云々――。それにしても、中国は人為的という
か、とんでもない実験国家ではある。政治は共産党一党独裁の社会主義国家、一方、経済
は世界第二の資本主義国家、本来、両立不可能なことを可能にしつつある。

 中国に関し、目からうろこの経験を述べる前に、私の「日本経済の景気に関する考察」
から始めたい――本邦初公開。まず原油価格について。昭和四十八年、オペックにより1
バレル三ドルがこ1ドルに値上がりした。これが第一次オイルショック。同五十四年、イ
ラン革命によりて1ドルが三〇ドルに上昇。これが第二次。日本の各企業はいっせいに省
エネ、脱石油のための設備投資、技術開発を図り、ぼう大な資金が投入された。しかし、
予想と違って石油の価格は上がらず、一バレルーOドル前後の低位で推移した。その結果、
多額の省エネのための投資を行なった日本製品は、投資をしなかった他国のそれより相対
的に割高になり、競争力が低下した。鉄鋼もしかり。私が川崎製鉄を離れる時、「原油価
格が三Oドルを超えない限り、日本の鉄の復権はないだろう」と予言した覚えがある。
 ところが、二十一世紀に入ると一転、鉄鋼業の業績はみるみる回復。理由は中国向け輸
出の急増だと。それも予想を紹えた量とスピードの、まさに爆買い。一国の経済発展だけ
で景気が動くことがあるんだと、目からうろこが落ちた。一方、原油価格も上昇。一時は
バレルーOOドルに迫る勢い。省エネで他国に差をつけた日本車が世界市場を席巻したが、
これこそ、私の“考察”の正しさを証明していると思うが、どうだろう。

 話は前後するが、昭和四十七年の日中国交回復以降、日本企業は中国への技術援助に力
を入れた。鉄鋼業もそれこそ手取り足取り、技術の供与、教育に努めたが、一方でブーメ
ラン効果(教えた技術で作られた製品が日本に輸入され、市場を乱すこと)を心配する声
もあった。それをテーマに関係者を集めた社内報の座談会ではI「ブーメラン効果は一時
的なもので、心配は要らない。中国が日本に対抗する工業国になるとは考えにくい。社会
主義国が経済発展をする難しさは、ソ連の例をみても明らかだ」との意見が主流で、さら
に、「もし仮に、中国が先進国と同じ経済レベルに達し、十億からの人民が先進国並みの
生活水準を求めたとしたら、世界の資源と環境は滅茶苦茶になるだろう」と――。

 環境と言えば、昨今の世界的な異常気象はすさまじい。記録的な大雨、大洪水、巨大な
ハリケーン、尋常でない気温の上昇等々、まさかとは思うが、こんな目からうろこは落ち
てほしくない。
                                   (平成二十八年十月記)

斜光22号 2017

                
                               (芸術新潮2014年1月号)


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